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動脈硬化の予防と治療

1.はじめに

 近年,生活習慣の欧米化や高齢化社会により,動脈硬化性疾患は増加しており,それらを原因とする心疾患や脳血管疾患は,本邦での死亡原因の主たるものとなっています(図1)。そのため,循環器病対策基本法が制定され,国をあげて動脈硬化性疾患の予防に取り組んでいます。今回は,それらの疾患の実態と,予防のための日々の生活での注意点,我々の行っているカテーテル治療について触れてみたいと思います。

2.動脈硬化とは

 全身の各臓器は,血流を介して必要な栄養素や酸素を受け取っています。ポンプの働きをする心臓から出た血液は,動脈によって全身に送られ,静脈によって戻ってきます。
生まれたばかりの頃の動脈は非常にきれいで,よどみなく全身に血液を送ることが出来ます。しかしながら,血管の壁に少しずつ負担がかかることにより,動脈の内側の壁にコレステロールなどの脂質の塊が沈着し,内腔を狭め,血流を障害してくるのが動脈硬化です。もう既に10歳代から動脈硬化は起こり始めていると言われています。動脈硬化のみでは症状はありませんが,各臓器に十分な血流を送れないようになって,臓器の血流不足が起きることによって症状が現れます。
 動脈硬化によって動脈が狭くなると,各臓器の一時的な血流不足が起こります.さらに悪化して完全に閉塞してしまうと,血流がいかないことで,各臓器が壊死してしまうことがあります。
これらの動脈硬化による病気は増加しており,日本人の死因の多くを占めています。

3.動脈硬化によって起こる病気

 動脈は全身に張り巡らされているため,動脈硬化によってあらゆる臓器の病気が起こり得ます。
動脈硬化によって脳の動脈が閉塞し,脳細胞が壊死して,意識障害,手足の麻痺や,しゃべりにくさ,見えにくさなどを自覚する病気が脳梗塞です。
心臓に栄養を送っている冠動脈という動脈が狭くなることで狭心症が起き,冠動脈が完全に閉塞することで心臓の筋肉が壊死すると心筋梗塞が起こります(図2)。
狭心症と心筋梗塞について詳しくふれたいと思います。
 狭心症では,心臓の筋肉はまだ生きており壊死していません。冠動脈は狭くなっているものの,血流はまだ送られているため,安静にしていると症状は出ません。運動,食事,入浴など,心拍数が上がる際に,それに見合っただけの増加する血液需要量を送れないことによって,胸痛や息切れといった症状を感じます。休むと数分から15分程度で治まるのが特徴です。
 一方,一瞬の胸の痛みや,逆に数時間も持続するような痛みは狭心症では起こりにくいものです。局所的な痛み,押すと痛い,肩や首を回すと痛い場合も,あまり狭心症では起こらない症状です。
 心筋梗塞は,心臓の筋肉が壊死する不可逆的な状態を起こしてしまいます。冠動脈が急激に閉塞してしまう急性心筋梗塞では,今まで経験したことのないような,冷や汗が出るほどの激しい胸の痛みを感じ,15分以上持続するのが一般的です。そのような場合には,すぐに救急車を呼んで病院を受診することが重要です。高齢者や糖尿病患者では,痛みを感じにくいため,症状のないまま心筋梗塞を起こしてしまっていることもあります。
 他に,足の動脈に動脈硬化が起きた場合には,下肢閉塞性動脈硬化症を発症します。血流が十分にいかなくなることによって,足先のしびれ,冷感を感じるようになり,重症化すると歩いた際に足の痛みを感じる間欠性跛行といった状態を起こしてきます。さらに重症化すると,足先の組織が壊死して,潰瘍や壊疽を起こし,最悪の場合,足を切断しなければいけない状態にもなり得ます。
 腹部の重要臓器への動脈に動脈硬化が起こることでも様々な症状を起こしてきます。代表的なところでは,腎臓に栄養を送る腎動脈に動脈硬化が起きると,良好な尿が作られないことによる腎不全や,腎臓から血圧を上げるホルモンが過剰に分泌されることで,降圧剤も効きにくい重症高血圧を発症してきます。

4.動脈硬化予防のための生活習慣

 動脈硬化の予防と治療,いずれにも最も大切なことは,適切な生活習慣の維持です。具体的には,図3の通り,禁煙の上,適正体重の管理,適切な食生活を送り,適度な運動を心がけ,定期的に健康診断などで状態を評価し,必要であれば治療していくことが大切です。
 喫煙習慣は,男性で1.5倍以上,女性で2.0倍以上の動脈硬化性疾患の発症リスクがあることが報告されています。たとえ一日1本しか吸わない場合にも,一日20本吸う方の半分くらいのリスクがあることが分かっており,禁煙して全く吸わないことが重要です。
 食生活では,食事の最初に野菜を多めに摂ること,塩分と糖質を制限し,魚油以外の脂質は制限することが重要です。
 野菜には,ビタミン,食物繊維,カリウムが豊富に含まれていることにより,降圧作用や血管内皮細胞の保護作用から動脈硬化の予防効果が示されているとともに,癌予防効果もあることが報告されています。また,野菜を食事の最初に摂ることで,食後の血糖値の上昇を抑え,糖尿病のコントロールを良好にするばかりか,動脈硬化予防効果も示されています。一日で両手一杯以上の野菜を摂取することが推奨されています。
 塩分過多は,血圧を上昇させ,心臓への負担をかけることが分かっています。厚生労働省(日本人の食事摂取基準2020年版)推奨の日本人の目標値は,男性7.5g/日未満,女性6.5g/日未満で,高血圧や心疾患の方は,6.0 g/日未満が目標となります。長野県民の食塩摂取量は,男性で11g/日以上,女性で9g/日以上と言われており,男女ともに,一日量で3 g/日以上,一食当たり1 g/日以上減らす必要があります。
 糖質過多は,血糖値を上昇させ糖尿病を悪化させるばかりか,動脈硬化を進行させます。糖質というと,砂糖や甘いお菓子やジュースをイメージすることが多いですが,甘くないせんべいや果物,いも類とともに,最も注意が必要なのは主食となる炭水化物です。間食を控え,主食の炭水化物を控えることが重要です。動脈硬化予防の観点からは,めん類やパンなどより,エネルギー,塩分,脂質が低い,白米を適量(軽く一杯程度)摂ることが推奨されます。
 一般的に,多くの脂質も動脈硬化を悪化させます。ただ,魚に含まれる魚油には動脈硬化予防効果があり,治療薬にも応用されています。魚は積極的に摂った方が良いのです。
運動としては,ゆっくりと長く動く有酸素運動が推奨されます。一日30分以上,週4日以上の運動を行うと動脈硬化の予防効果があることが分かっています。まとまった運動時間をとることが困難である場合には,こまめに動くようにして,週に150分以上の運動時間を確保することが推奨されています。
 適切な食生活と,適度な運動を行った上で,定期的に健康診断や定期受診などで,健康チェックを行うことが大切です。動脈硬化予防の観点からは,中性脂肪,LDLコレステロール(悪玉),HDLコレステロール(善玉)などの脂質の値,血糖値,HbA1cなどの血糖コントロールの値,尿酸値などに注意が必要です。体重や血圧は,変動することがあり,家庭で毎日測定することが理想的です。
 体重の目標値は,BMI 25未満を基準にします。BMIとは,体重kg÷身長m÷身長mで求めます。そのため,1.70mの方の体重目標値は,25×1.70×1.70=72.25kg未満となります。外来で定期的な検査や,定期的な健康診断,日々の家庭での体重や血圧の測定は必要ですが,重要なことは,ただ測定するだけではなく,それらの結果に興味を持ち,適正な値にもっていくように,日々の生活を改めたり,必要であれば薬物治療を組み合わせたりすることです。

5.動脈硬化性疾患に対する薬物治療

 動脈硬化性疾患を発症した方の多くは,肥満,喫煙習慣,糖尿病,高血圧,脂質異常症,高尿酸血症などの危険因子を有しています。それらの管理を厳格に行うことが必須になります。残念ながら,起きてしまった動脈硬化をきれいにすることは不可能であり,危険因子の管理による進行予防が重要となります。
糖尿病は,合併症予防のためには,平均血糖の指標であるHbA1c値を,少なくとも7.0%未満,可能であれば6.0%未満に厳格にコントロールする必要があります。また,HbA1c値だけでは評価できない食後血糖値のコントロールのためには,先述の通り,野菜から摂取し,過食を控えることが重要です.最近では,心臓や血管の病気発症を抑制する血糖降下薬もあり,それらを適切に使用する必要があります。
 血圧コントロールのためには,健診や受診日のみの血圧だけではなく,自宅で血圧を測定することが重要です.診察室では正常血圧であるものの,自宅で高値となる仮面高血圧の方は,やはり動脈硬化を促進することが分かっています。朝,排尿後,食事や内服前の動く前に,安静にして測定し,少なくとも135/85mmHg未満,他の危険因子がある方,既に動脈硬化が進んでいるような方は,より厳しく125/75mmHg未満を目標にする必要があります.目標値に達しない場合には,適切な降圧剤による管理が重要です。
脂質異常症に関しては,日本動脈硬化学会が一般の方向けに,冠動脈疾患発症リスクと目標値の計算サイトを出しており,参考になります(https://www.j-athero.org/jp/general/ge_tool/)。中性脂肪は150mg/dL未満,HDLコレステロール(善玉)は40 mg/dL以上を目標にします.LDLコレステロール(悪玉)の目標値は,リスクによって層別化されていますが,少なくとも140 mg/dL未満,リスクの非常に高い方は70 mg/dL未満という,かなり厳しい値が設定されています。食事療法のみでは十分に低下しないことがある一方で,内服薬によりしっかりと下げることが可能であることが分かっています。
動脈硬化性疾患が増加していること,それらが危険因子のコントロールにより予防可能であることから,年々危険因子の管理目標値が厳しくなっている傾向であることには注意が必要です。

6.動脈硬化性疾患に対するカテーテル治療

 以前は,動脈硬化により狭窄や閉塞が起きて,臓器の血流不足や壊死が起きた場合には,その先の正常血管に新たな血管をつなぐ,バイパス手術が一般的でした。しかし,全身麻酔が必要で,傷も大きくなることなどから,より負担の少ないカテーテル治療が一般的になってきました(図4)。
 カテーテルというのは,細い管であり,多くは手首の橈骨動脈から,時には足の付け根の大腿動脈から治療部位まで持っていきます。その上で,そのカテーテルの中から,非常に細く,柔らかい,ガイドワイヤーという針金を治療部位の先まで通過させます。そのガイドワイヤーをレール代わりにして,血管を拡げるバルーンや,金属の網であるステントという治療器具を持ち込んで,治療部位を拡張します。
 バルーンやステントでは十分に拡がらないことが予想されるような,非常に硬い石灰化がある場合には,人工ダイヤモンドで削る治療を行うこともあります。カテーテル治療の利点は,負担が少なく,局所麻酔で行え,短期入院で治療可能で,繰り返し行うことが可能であることです。治療後は,治療部位が閉塞しないように,抗血小板剤という血液をサラサラにする薬を内服する必要があり,出血には注意が必要です。
心臓に栄養を送っている冠動脈(図5)や下肢動脈(図6)をはじめとして,全身血管に対してカテーテル治療を行うことが可能です。カテーテル治療後も,適切な生活習慣を継続しないと,治療部位や新たな血管に動脈硬化を起こしてきます。生活習慣の改善を継続していくことが重要です。

7.まとめ

 動脈硬化が原因の病気は増加しています。禁煙,適切な食事療法,運動療法を行い,必要であれば薬物治療を組み合わせることにより,糖尿病,高血圧,脂質異常症などの管理を厳格に行うことで,動脈硬化の進行予防を図ることが重要です。

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